
手紙~天国のあなたへ~
第6章 別離
そんな時、あの少女と出逢ったのだ。伴も連れず、お忍びでこっそり宮殿を抜け出し町を歩いてあの日、彼の運命は変わった。
少女に触れてしまえば、自分が背負う不幸に彼女まで巻き込むと知りながらも、結局、想いを遂げてしまった。
留花と過ごしたのは、彼の二十七年という長い生涯から見れば、一瞬のようなものだろう。しかし、彼にとっては残りの無為に過ごした月日よりもはるかに密度の濃い充実した―まさに〝生きている〟と感じられた時間だった。
妻が料理を作る姿を眺め、妻と共に食事を取る。そんな当たり前の幸せがあの小さな町外れの家にはあった。まさにそんなささやかな幸せこそが、彼の求めていたものだったのである。
世子の記憶が巻き戻ってゆく。
留花と過ごした中でとりわけ印象的で忘れられないのは、春まだ浅い日の出来事だ。
少女に触れてしまえば、自分が背負う不幸に彼女まで巻き込むと知りながらも、結局、想いを遂げてしまった。
留花と過ごしたのは、彼の二十七年という長い生涯から見れば、一瞬のようなものだろう。しかし、彼にとっては残りの無為に過ごした月日よりもはるかに密度の濃い充実した―まさに〝生きている〟と感じられた時間だった。
妻が料理を作る姿を眺め、妻と共に食事を取る。そんな当たり前の幸せがあの小さな町外れの家にはあった。まさにそんなささやかな幸せこそが、彼の求めていたものだったのである。
世子の記憶が巻き戻ってゆく。
留花と過ごした中でとりわけ印象的で忘れられないのは、春まだ浅い日の出来事だ。
