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手紙~天国のあなたへ~

第6章 別離

 むろん、彼なりに努力はしたつもりだ。十歳から連れ添った妻は利発でいかにも良家の娘らしく鷹揚だ。妻にはそれなりの情は抱いているし、現に夫婦の間には次々と王子王女が生まれた。
 それでも、彼はいつも心の中に虚ろな闇を抱えていたような気がする。自分が求める本当の幸せの形はこんなものではないと思う自分がいた。与えられた家庭を良人として父として大切に思いながらも、心はいつも飢えたように何かを追い求めていた。
 いつしか彼は息の詰まるような王宮から出て、活気ある下町に出るようになった。不思議なことに、王宮から出ると、生き返ったような気持ちになる。貧しくとも、したたかに生き、自分たちの暮らしを愉しむ民たちの表情を眺めていると、自分まで別人になったように思えた。

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