
手紙~天国のあなたへ~
第6章 別離
世子の脳裡に初めて留花とめぐり逢った日のことがつい昨日のように懐かしく甦る。
聡明なのに、世間知らずで純真で、自分のことよりも他人の心配ばかりする娘。何故か、ひとめ見たときから放っておけなくて、それはその娘が無垢で危なかしいからだと自分に自分で言い訳して、娘に近づいた。
一度近づいたら、もう恋心は止まらなかった。彼の人生はこれまですべて他人から与えられたもの、決められたものばかりで埋め尽くされていた。二歳で王世子に冊封されたことも、十歳で父の決めた許嫁と結婚したことも、すべて予め決められていたことだ。
恐らく、父は息子がその整然と定められた道程を行儀良く脇目も振らずに進んでゆけば、それで満足だったのだろう。だが、世子は父の思い通りにはならず、いつしか自分の頭で考え、行動するようになった。
父が求めたのは、父の理想どおりに成長し、行動してゆく息子であって、理想の息子はけして自分の考えや信条などを持ってはならなかったのだ。ひたすら父の命を聞き、遂行していれば良かったのだ。
聡明なのに、世間知らずで純真で、自分のことよりも他人の心配ばかりする娘。何故か、ひとめ見たときから放っておけなくて、それはその娘が無垢で危なかしいからだと自分に自分で言い訳して、娘に近づいた。
一度近づいたら、もう恋心は止まらなかった。彼の人生はこれまですべて他人から与えられたもの、決められたものばかりで埋め尽くされていた。二歳で王世子に冊封されたことも、十歳で父の決めた許嫁と結婚したことも、すべて予め決められていたことだ。
恐らく、父は息子がその整然と定められた道程を行儀良く脇目も振らずに進んでゆけば、それで満足だったのだろう。だが、世子は父の思い通りにはならず、いつしか自分の頭で考え、行動するようになった。
父が求めたのは、父の理想どおりに成長し、行動してゆく息子であって、理想の息子はけして自分の考えや信条などを持ってはならなかったのだ。ひたすら父の命を聞き、遂行していれば良かったのだ。
