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手紙~天国のあなたへ~

第6章 別離

 どうして今まで気付かなかったのだろう。この国の王の息子、つまり王(ワン)世子(セジヤ)の名前が李愃であることに。祖母が愃は王族に間違いがないと言っていたけれど、よもや王世子であるとは流石に想像だにしなかった。それとも、亡くなった香順は、初めて愃を見たあの日、既に彼が世子であることを見抜いていたのだろうか。
 留花は知らないけれど、愃が留花に託した五本指の龍を象った玉牌は王宮に住まう国王や王世子の纏う龍袍に金糸で縫い取られているものと同じであり、この意匠を使えるのは王、世子、更には王妃や嬪宮(ピングン)(王太子妃)のみだ。
 愃の背中が遠くなってゆく。
 私の生涯をかけて愛した男は、この国の世子、いずれは王位を受け継ぐべきはずの方であった―。
 留花は愃の姿が曲がり角を曲がって見えなくなった後も、惚けたようにその場に立ち尽くしていた。

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