
手紙~天国のあなたへ~
第6章 別離
人眼に立つことを怖れてか、人通りのないさびれた路地を急ぎ足で行こうとする愃の背が一瞬止まった。
「あなたのお名前を―真の名を教えては頂けませんか?」
せめて愛するひとの、一生に一度、最初で最後の恋の相手となるであろう人の名前くらいは知っておきたい。そう思って訊ねたのだ。
立ち止まった愃は首だけ少しねじ曲げるような不安定な姿勢で留花を見つめた。
「私の名は李愃。それだけは嘘ではない。―私の父はこの国を統べる王だ」
その刹那、留花の身体を雷に打たれたかのような衝撃が貫いた。
李氏は朝鮮にはよくある苗字だ。ゆえに、〝李愃〟という名前を耳にしても、格別何も感じなかったのだが、迂闊といえば迂闊であった。
「あなたのお名前を―真の名を教えては頂けませんか?」
せめて愛するひとの、一生に一度、最初で最後の恋の相手となるであろう人の名前くらいは知っておきたい。そう思って訊ねたのだ。
立ち止まった愃は首だけ少しねじ曲げるような不安定な姿勢で留花を見つめた。
「私の名は李愃。それだけは嘘ではない。―私の父はこの国を統べる王だ」
その刹那、留花の身体を雷に打たれたかのような衝撃が貫いた。
李氏は朝鮮にはよくある苗字だ。ゆえに、〝李愃〟という名前を耳にしても、格別何も感じなかったのだが、迂闊といえば迂闊であった。
