
手紙~天国のあなたへ~
第6章 別離
最後の朝は泣かないと決めていた。涙なら、昨夜、愃に抱かれて、さんざん流し尽くしたのだ。
「愃さま」
留花は着替えを終えた愃を外まで見送った。
夏の朝とて、夜明け前とはいえ、既に空は明るい。雨は既に止み、今日は梅雨の合間の晴れ間がひろがるであろうことを予感させる太陽が頭上に輝いている。
気の早い雀が遠くで囀り、表の一本だけ残った紫陽花の緑の葉がきらめく雫を頂いていた。愃が手折ってきたもう一本の花は今、素焼きの瓶に入れて箪笥の上に飾っている。
表に出た愃は警戒するかのように周囲をさっと見回し、不審な者がいないかどうか確かめているようだ。彼の父は実の息子の身辺を常に見張らせてでもいるのだろうか。父が血を分けた実の息子をそこまで信じられないというのは留花にとっては信じられなくもあり、何とも哀しいことでもあった。
「愃さま」
留花は着替えを終えた愃を外まで見送った。
夏の朝とて、夜明け前とはいえ、既に空は明るい。雨は既に止み、今日は梅雨の合間の晴れ間がひろがるであろうことを予感させる太陽が頭上に輝いている。
気の早い雀が遠くで囀り、表の一本だけ残った紫陽花の緑の葉がきらめく雫を頂いていた。愃が手折ってきたもう一本の花は今、素焼きの瓶に入れて箪笥の上に飾っている。
表に出た愃は警戒するかのように周囲をさっと見回し、不審な者がいないかどうか確かめているようだ。彼の父は実の息子の身辺を常に見張らせてでもいるのだろうか。父が血を分けた実の息子をそこまで信じられないというのは留花にとっては信じられなくもあり、何とも哀しいことでもあった。
