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手紙~天国のあなたへ~

第6章 別離

耳許で絶え間なく囁かれる優しい言葉に、留花は泣くまいと思っても余計に泣けた。
 愃が帰っていったのはいつもと同じ暁方であった。
 愃の着替えを手伝いながら、こうして妻らしいことをするのもこれが本当に最後なのだろうと思ってしまう。
「どうかお元気で」
 死ににゆくという人に贈るべき言葉ではなかったかもしれない。しかし、この期になっても、留花は愃が死ぬというのは何か信じられない―悪い夢を見ているような気がしてならなかった。
「そなたこそ、達者で暮らすのだぞ。逢わなかった間に少し痩せたのではないか? 食べる物はちゃんと食べているのであろうな」
 こんなときにも自分の心配より留花の身体を気遣うところが愃らしい。そう思うと、また涙が込み上げてきそうになり、留花は必死で堪えた。

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