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手紙~天国のあなたへ~

第6章 別離

 わずかな沈黙があった。長いようにも思えるが、時間的にはたいしたものではなかったろう。
「―ありがとう。留花、私はそなたというかけがえのない女とめぐり逢えた宿命に心から感謝する」
 最後の夜は切なかった。留花と愃は烈しく求め合い、幾度も交わった。際限なく身体を重ねることで、二人ともに互いの存在を確かめ合い、更にその記憶のすべてを相手の中に刻みつけておこうとするかのように烈しい交わりとなった。
 愃の熱い唇が素膚を這う度、留花の白い身体が清流で漂うたおやかな魚のように跳ねる。ひそやかな夜の底にあえかな吐息と声が溶けていった。
 留花の瞳からとどまることなく流れ落ちる涙を愃は優しく唇で吸った。
「泣くな、私はいつもここに来る度、そなたが心から嬉しそうに笑うのを見るのが好きだった。そなたの可愛らしい笑顔をずっと記憶にとどめておきたいのだ。今宵は笑ってくれ」

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