
手紙~天国のあなたへ~
第6章 別離
「―愃さま、どこか遠くに逃げましょう。誰も私たちを知る人がいない遠くまで逃げ伸びて、そこでひっそりと暮らしましょう」
ここではないどこかで、李愃という名前も高貴な身分も棄てて、ただの人として生きれば、彼の父親も息子の生命を奪うことまではしないのではないだろうか。
それは咄嗟に思いついた儚い希望的観測であった。
「留花、そなたの申し出は嬉しいが、それはできない。私だとて、そなたと共に手を取り、都から離れて地方に逃れて、ひっそりと生きられたなら、どんなに良いことか。私は今の地位や立場に少しも未練はない。愛する女と二人だけで暮らし、田畑を耕し、名もなき民として市井で一生を終えられるというのなら、歓んでそうする
ここではないどこかで、李愃という名前も高貴な身分も棄てて、ただの人として生きれば、彼の父親も息子の生命を奪うことまではしないのではないだろうか。
それは咄嗟に思いついた儚い希望的観測であった。
「留花、そなたの申し出は嬉しいが、それはできない。私だとて、そなたと共に手を取り、都から離れて地方に逃れて、ひっそりと生きられたなら、どんなに良いことか。私は今の地位や立場に少しも未練はない。愛する女と二人だけで暮らし、田畑を耕し、名もなき民として市井で一生を終えられるというのなら、歓んでそうする
