テキストサイズ

手紙~天国のあなたへ~

第6章 別離

「愛しい子よ、大切な我が息子よ。一体、お前はどこから来たのだ? 幾千、幾億の宝、金銀にも勝る大切な我が子よ、きっと天がお前を授けて下されたのだ」
 ほどなく留花の澄んだ歌声が流れ始めた。
「済まぬが、あのときのように膝を貸してくれ」
 恐らくこれが最後になるであろうから。
 その科白は互いに喉許まで出かかっていたはずだが、二人とも口にしようとはしなかった。
 横たわった愃の頭を膝に乗せ、留花はこの国で産まれ育った人間なら、誰でも知っている子守歌を歌う。
 静かで優しい時間が二人を包み込み、流れていった。子守歌を歌いながら、留花は泣きたい衝動と懸命に闘った。
 いつしか膝の上で、愃の手のひらが留花の手のひらに重ねられていた。もう一方の手は顔の上にのせているため、表情は窺えない。その手の温もりに思わず涙を零しそうになり、幾度もまばたきをすることでそれを堪えた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ