
手紙~天国のあなたへ~
第6章 別離
「留花、元々、この世には根っからの悪人など、いはしない。だが、立場や権力というその人に付随しているしがらみが人を変え、欲深にも怖ろしい鬼にもしてしまうのだよ。もし仮に―あり得ないことではあるが、父上が市井に生きるただ人で、私も両親の許で育つことが許されていたならば、こんな展開にはならなかったはずだ。私たちはいつも一緒にいて話をすることで、心を通わせ合えた。実の親子でありながら、憎しみ合うこともなく、互いに理解し合えただろう」
「―そんな、旦那さまが何をしたというのですか? 旦那さまは実のお父上に対して叛意を抱くような方ではありませんのに!」
留花はなおも涙が、哀しみが止まらなかった。
ややあって、愃がポツリと付け足すように言う。
「それゆえ、少なくとも私は父上を恨んではいない。ただ、普通の父と子らしい想い出が父上との間には何もないから、今となっては、それだけが残念だ」
愃の言葉の語尾がかすかに震えた。
「―そんな、旦那さまが何をしたというのですか? 旦那さまは実のお父上に対して叛意を抱くような方ではありませんのに!」
留花はなおも涙が、哀しみが止まらなかった。
ややあって、愃がポツリと付け足すように言う。
「それゆえ、少なくとも私は父上を恨んではいない。ただ、普通の父と子らしい想い出が父上との間には何もないから、今となっては、それだけが残念だ」
愃の言葉の語尾がかすかに震えた。
