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手紙~天国のあなたへ~

第6章 別離

「大分前のことになるが、私の複雑な生い立ちについては、そなたにも話したはずだ。現在も私の置かれた状況は、それだけ難しい。私は実の父に疎まれているのだ、留花。ただ疎まれているだけではない、父は私が謀反を企んでいると疑っている。私を実子のように可愛がって下さった前妻が亡くなり、父は新たに若い妻を娶った。その新しい継母があること、ないことを父に吹き込んで、私たち父子の間の溝は決定的になってしまった。最早、父上との間のわだかまりを取り除くことはでない。父と私の仲は修復不可能なところまで来てしまったのだよ」
 留花は涙に濡れた瞳で愃を見上げた。
「それでも―。血を分けた実の親子ではありませんか? 何とか話し合って解り合えないのですか?」
 愃の整った面に穏やか微笑が浮かんだ。ああ、この方は何と哀しげに微笑まれるのだろう。

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