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手紙~天国のあなたへ~

第6章 別離

「そんなのって、酷い。愃さまはそれで良いかもしれないけれど、私はどうなるの? あなたさまのことを私は何も知らないまま、何がどうなっているのかも判らないまま、あなたは私の前からいなくなると言う。そんなのは耐えられない」
 留花の白い頬を涙の雫が次々ところがり落ちる。
「もし、私に何かあったときには、これを売るが良い。そなたが形見と思って売りたくなければずっと持っていれば良いし、暮らしに困ったときには幾ばくかの足しになろう」
 愃は懐に手を入れ、やおら何かを眼の前に差し出した。
「これは―」
 留花が眼を瞠り、愃を見る。
 大きな手のひらには不似合いなほど繊細な細工の玉(オク)牌(ペ)は、何かの玉(ぎよく)でできているようだ。水を彷彿とせる透き通った蒼(ブ)色(ルー)の石(サファイア)を飛龍の形に彫り込んでいる。その下に長い絹の房が垂れ下がり、紐も石と同じく水色を基調としており、下方はもっと濃い蒼色に染め分けてある。

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