テキストサイズ

手紙~天国のあなたへ~

第5章 夫婦

「いや、子守歌が良い。どんなものでも良いから、そなたの知っている子守歌を歌ってくれ」
 留花はひとしきり思案してみたが、三歳で母を喪った彼女には母の子守歌を聞いた想い出は残っていない。しかし、祖母がたまに思い出したように歌ってくれたことがあり、その歌なら何とか憶えていた。
「愛しい子よ、大切な我が息子よ。一体、お前はどこから来たのだ? 幾千、幾億の宝、金銀にも勝る大切な我が子よ、きっと天がお前を授けて下されたのだ」
 うろ覚えなので、思い出しながら歌ってゆく。
 その時、かすかに嗚咽が聞こえてきて、留花はハッとした。
 愃が泣いている―。
「留花、私は女々しい男だ。女に膝枕をして貰い、子守歌を聴いて涙するなど、世の人が聞けば、軟弱者と嘲笑われるだろう。今、そなたが歌ったその子守歌は、私が幼い頃、母の膝枕で耳にしたものと同じだ」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ