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手紙~天国のあなたへ~

第5章 夫婦

「そなたの膝は柔らかくて温かい。留花、こうしていると、母上(オモニ)の膝枕で眠った幼い頃のことを思い出しそうだ。私は跡継ゆえ、物心つく前に母上から離れて乳母や守役に育てられた。それでも、たまに母上が私の許においでになった時、こうしてこっそりと膝枕をして頂いたものだ。膝枕などしているところを父上に見つかれば、私だけでなく母上まで物凄くお叱りを受けるから―。母上は滅多に私の許に来ることはできず、私はいつも母上の手許で育ち、母の愛を独り占めしている妹たちを恨めしく思ったよ」
「―愃さまは、お淋しかったのですね」
 留花が呟くと、愃は笑った。その儚くて淋しげな笑みは留花の心を射貫き、疼かせた。

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