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手紙~天国のあなたへ~

第5章 夫婦

 留花は愃の手を振り払うと、メッと幼い子にするように睨んで見せた。
「―済まない、別にいつもそなたをからかうつもりはないんだが。そなたの困った顔がまた可愛いので、つい意地悪を言ってみたくなるのだ」
 どこまで本気か判らない睦言に、留花はもう怒る気力もなくして脱力してしまう。
 この三ヵ月で、この愃という男に対して、留花は更に新たな発見をした。
 まず、根は非常に明るい性格だということ。基本的にはいつも冷静で、滅多に感情を表に出したり取り乱したりすることはない。しかし、時折、心の奥底に巣喰う孤独がその表情やまなざし、ふとした仕種に現れる。
 その孤独の因(もと)は恐らくは、以前、彼自身が語っていたように複雑な親子関係や生い立ちに根ざすものだろう。
 愃は自らについては殆ど語らないため、もちろん、これらは留花が勝手に想像したにすぎない。

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