
Memory of Night2
第3章 名前
それは一枚のポスターだった。他の貼り紙よりはだいぶ大きくしっかりとした厚紙に彩られた鮮やかな写真。
そこには人魚が映っていた。髪は淡い金色。波に揺られて水中で広がり、華やかさを際立てている。
淡いブルーの瞳と、同じく淡いピンク色の唇。
真っ青で鮮やかな海の中、貝殻や珊瑚の形をした装飾品を髪や腕に付けて、微笑んでいる。
水中だということを意識させないくらいに穏やかで、柔らかい微笑みだった。
周りの背景は合成かもしれないが。
下半身は青い鱗(うろこ)に覆われているが、人魚なんて存在が実際にいるはずもなく、おそらくは自分と同じくらいの年齢の少女だろう。
「これもこの事務所のモデルの子……?」
「そうだよ、綺麗でしょう?」
呟きに、返事が返ってきたことに驚いた。
宵が振り返ると、いつの間にかロビーに立っていたのは深津だった。
「それ、うちの事務所の看板娘だった子。あれも」
深津が指先で指し示す方を見る。
そこにも人魚のポスターと同じ大きさのポスターがあった。
だがそこに映っているのは海ではない、燃えたぎる業火だ。
