
Memory of Night2
第3章 名前
――名は体を表す、なんてことわざがあるけれど、春加に関して言えばそんなこと少しも当てはまらない。
(遅い)
宵はスタジオを出てすぐのロビーで彼女を待っていた。
撮影の後は、だいたいその建物の入り口付近か、ロビーで待ち合わせるのが習慣になっている。
ロビーの壁に背中をつけて、すでに十分ほど。さっさと着替えてこいとかぬかしていたくせに、当の本人はまだ見えない。
今までにだって待たされることは度々あったが、今日は特別だ。ただでさえ平日だし、五限目の体育は休めない。
それを伝えてあるはずなのに、一向に春加が現れる気配がないのがむかつく。
(変な……女)
宵はそっと嘆息した。
ロビーの壁には貼り紙が多い。よくわからないオーディションのポスターやら、掃除のバイトの求人やら、事務所の宣伝用のそれやら。
時間潰しにそれらの貼り紙を眺めながら、宵は春加の今までの態度を思い返していた。
如月春加、なんて、穏やかな木漏れ日でも連想させる綺麗な名を持ちながら、彼女の強烈な容姿も態度もそれとはかけ離れすぎているのだ。
