テキストサイズ

Memory of Night2

第3章 名前


(また……っ)


 宵は頭を抱えたくなった。

 深津はこうして、宵にやたらとちょっかいを出してくる時がたまにある。軽い挨拶だけで素通りしていく日もあるのに、気まぐれな男だった。

 その真意がよくわからずに最初は戸惑ったが、もう慣れた。


「良かったら、昼一緒にどう? もちろん僕が奢るからさ」

「……何寝ぼけたこと言ってるんですか? 俺これから学校です」

「サボタージュしちゃいなよ、学生のうちは遊ばなきゃ」

「体育でテストなんです」


 慣れたとはいえあまりにしつこいとイライラしてしまう。

 深津は本気ではないし、振り払おうと思えば多分できるけれど、立場的にはばかられるのだ。

 だがいつまでもこんなところで油を売っていると、本気で授業に間に合わない。宵は内心舌打ちした。


「あの、そろそろ……」

「なら、今度の休日にでも僕の部屋で……」


 その時だった。


「――申し訳ありませんが、そういう個人的な誘いは外でやってくださいません? 大変鬱陶しいんで」


 抑揚のない冷淡な声が真っ赤な唇から紡がれる。

 宵が顔を上げると、深津のすぐ後ろには春加が立っていた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ