
Memory of Night2
第3章 名前
顔を上げれば案の定、スタジオの入り口のところで壁にもたれるような格好で、深津プロデューサーが立っていた。
深津は黄色いワイシャツにグレーのネクタイという遊び人のような服装をして、舐めるような視線を宵に向けている。
「……どーも」
なるべく目を合わせないようにとうつむき気味になりながら、つぶやくように宵は応える。
「あら、元気ないなー。挨拶は笑顔が基本だよ」
そういう深津の顔も確かに笑顔だった。
けれどもそれはやはりどこか胡散臭く、ナンパ師のような印象が拭えない。
初対面の時セクハラまがいなことをされたからなのか、どうしても深津に対して苦手意識を抱いてしまうのだ。
「……すみません。ありがとうございます。お先に失礼します」
笑顔は作らなかったが、深津と目は合わせた。
そうして深めに頭を下げ、深津の横を通り過ぎようとしたら、今度は腕を掴まれた。
驚いて振り返ると、さらに腕を引かれ、そのまま壁に背を押し付けられる。
痛くはなかった。腕は軽く握られたまま、深津自身の体で宵の逃げ道を塞ぐ。
