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Memory of Night2

第3章 名前


 白鳥芸能プロダクションに隣接されたこのスタジオも、プロデューサーと名乗る深津が所有している場所だった。

 他と比べて敷地はそれほど広くないが、設備は一通り完備されている。

 休日は別のスタジオに案内されて撮影を行うことが多いので、ここに通されたのはまだ二度目だった。

 携帯を見るとすでに十一時をまわっている。宵がわずかに足を速める。

 撮影用の服から朝着てきた服に着替え、軽くつけたファンデーションを落とさなければならない。

 学校までは朝と同様春加が送ってくれるはずだったが、宵の家から事務所までは車で四十分ほどかかる。学校にも、おそらく同じくらいかかるだろう。

 急がないと昼を食べる時間もなさそうだ。


「お疲れ様。今日もかぁわいいねぇ」


 だが、スタジオを出ようとしたところで不意に声がした。

 語尾にハートでも付けたようなイントネーションで声をかけられ、宵はびくっと身をすくめた。

 独特の話し方をする人だから、それが誰なのかはすぐにわかった。今一番会いたくない人物だ。

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