テキストサイズ

Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第9章 ♦RoundⅧ(溺れる身体、心~罠~)♦

直輝がふいに洩らした呟きには、意外にも懇願するような響きがあった。
「え?」
 意味を図りかねて問うと、いきなり覆い被さってきて、烈しく貪るような口づけをされた。
「君が好きだ、いや、ずっと好きだった」
 有喜菜は我が耳を疑い、愕然とした。
「でも、あなたが選んだのは紗英子よ」
 直輝は噛みつくように言った。
「違う。俺は最初から君だけを見ていたのに、君は俺を見ようともしなかった」
「それは違うわ。私だって、あなたのことを」
 言い淀んだ有喜菜を、直輝は燃えるような眼で見つめた。
「そうなのか?」
「だから、言ったでしょ。六年ぶりに再会したときも。四月の初めに、あのピアノバーで出逢ったときにも同じことを私、あなたに言ったわ」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ