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Tears【涙】~神さまのくれた赤ん坊~

第9章 ♦RoundⅧ(溺れる身体、心~罠~)♦

 けれど、それはけして望んではならない夢だとも承知していた。紗英子への復讐として直輝を寝取るつもりではあったけれど、彼女の思い描いていた復讐は所詮、そこ止まりだったのだ。何も紗英子から〝夫〟としての彼を奪おうとまで考えていたわけではなかった。
 なのに、今、こうして直輝に初めて抱かれ、有喜菜はもっと欲張りになっている。直輝に、ずっと一緒にいて欲しいと、彼の側にずっといたいと願うようになってしまった。
 だが、有喜菜はそれだけはしたくなかった。たとえ紗英子がもう親友とは呼べなくなってしまっても、有喜菜を子どもを生ませるために都合良く利用したのだとしても、かつての友として、その夫を奪い家庭を壊すなんてできるはずがなかった。
 想いに沈む有喜菜の耳を、直輝の声が打った。
「もう、遅すぎるんだろうか」
 有喜菜は俄に現実に引き戻され、弾かれたように顔を上げる。

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