テキストサイズ

月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第17章 夢の終わり

 口調が変われば、表情までもが変わる。夢見る少女のような恍惚とした顔だが、よくよく見れば、その双眸には何ものかに憑かれたような狂気の光が宿っていた。
「私の娘におなりなさい。けして悪いようにはしない。約束どおり、光王には町にちゃんとした店を持たせるように計らおう」
 どこまでも淡々と語を重ねる理蓮を、香花は感情を瞳の奥深くに沈めて見つめる。
「奥さま、どうか私の話をお聞き下さいませ。亡くなられた素花さまも奥さまも、この一帯の民たちから慕われる慈悲深くお優しい方であったと私は聞いております。なのに、こんなことをなさって、亡くなられたお嬢さまが歓ぶとお思いになるのですか?」
 理蓮が虚ろな眼をまたたかせる。空洞のようだった双眸に僅かな光が差したように見えた。
「でも、あの子はもういない。私は、素花に永遠に逢うことはできないのよ。それとも、次の世でもあの子は私を探して、私の娘として産まれてきてくれるかしら」
 理蓮は両手で顔を覆った。低い嗚咽が洩れる。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ