
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第17章 夢の終わり
小屋の中は埃がうずたかく積もり、蜘蛛の巣があちこちにかかっている。鋤や鍬に至っては、錆び付いていて、これでは使いものにならないだろう。
「こんな薄汚いところにずっといては、それこそ本当に病気になってしまいます。奥さまはお嬢さまをご養女にとお考えになっているほどだから、お嬢さまがひと口でも食べて下されば、すぐにお屋敷内のどこかちゃんとしたお部屋に移して下さいますよ。ね、だから、ひと口だけでも召し上がって」
ソンジュの懸命な説得にも、香花は頷かない。ここに連れてこられる途中で気を失った香花が次に眼を覚ましたのは、既にここに運び込まれてからだった。意識を失う寸前、香花は自分を拉致した男たちの一人の顔をやっと思い出した。
後方から追ってきた背のやたらと高い、痩せぎすの男は、この屋敷の下男だったのだ。何故、香花がその男の顔を朧に記憶していたかといえば、腰痛で動けなくなっていた理蓮を助けた日、香花は屋敷内でその男を見たからである。四阿に案内され、茶菓でもてなされた香花の前に理蓮の命令で大きな包みを運んできた男―それが、あの下男だった。
「こんな薄汚いところにずっといては、それこそ本当に病気になってしまいます。奥さまはお嬢さまをご養女にとお考えになっているほどだから、お嬢さまがひと口でも食べて下されば、すぐにお屋敷内のどこかちゃんとしたお部屋に移して下さいますよ。ね、だから、ひと口だけでも召し上がって」
ソンジュの懸命な説得にも、香花は頷かない。ここに連れてこられる途中で気を失った香花が次に眼を覚ましたのは、既にここに運び込まれてからだった。意識を失う寸前、香花は自分を拉致した男たちの一人の顔をやっと思い出した。
後方から追ってきた背のやたらと高い、痩せぎすの男は、この屋敷の下男だったのだ。何故、香花がその男の顔を朧に記憶していたかといえば、腰痛で動けなくなっていた理蓮を助けた日、香花は屋敷内でその男を見たからである。四阿に案内され、茶菓でもてなされた香花の前に理蓮の命令で大きな包みを運んできた男―それが、あの下男だった。
