
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第17章 夢の終わり
この籠は香花が使っているもので、萬安の許に卵を届けにゆくときも、これに卵を入れているのを彼はよく知っている。
籠が落ちていたのは、観音像らしい石仏の手前だった。誰かが供えたのか、熟れた艶やかな石榴が一つ、ぽつんと置かれている。
鮮やかな朝焼けの色を閉じ込めたような色の実を、緩慢な動作で光王は拾い上げた。
恐らく、香花はここで県監の屋敷の下男に襲われたに違いない。
「馬鹿者が。俺があれほど、県監の屋敷にき近づくなと言ったのに」
光王は歯噛みする。
香花を攫ったのが県監ユン徳義その人ではなく、妻の理蓮の方だとは容易に予測がつく。あれほど人望もあり、人格的に優れた男が他所の娘をかっ攫うなどとはおよそ考えがたい。
「許せねぇ」
光王は無意識の中に拳を握りしめる。たとえ相手が女だとはいえ、香花に傷をつけたり、生命を奪ったりするようなことをすれば、生かしてはおくものか。
籠が落ちていたのは、観音像らしい石仏の手前だった。誰かが供えたのか、熟れた艶やかな石榴が一つ、ぽつんと置かれている。
鮮やかな朝焼けの色を閉じ込めたような色の実を、緩慢な動作で光王は拾い上げた。
恐らく、香花はここで県監の屋敷の下男に襲われたに違いない。
「馬鹿者が。俺があれほど、県監の屋敷にき近づくなと言ったのに」
光王は歯噛みする。
香花を攫ったのが県監ユン徳義その人ではなく、妻の理蓮の方だとは容易に予測がつく。あれほど人望もあり、人格的に優れた男が他所の娘をかっ攫うなどとはおよそ考えがたい。
「許せねぇ」
光王は無意識の中に拳を握りしめる。たとえ相手が女だとはいえ、香花に傷をつけたり、生命を奪ったりするようなことをすれば、生かしてはおくものか。
