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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第13章 十六夜の悲劇

「無様なものだな。罪のない民に威張り、ふんぞり返っている貴様の正体がそれか」
 その美麗な面に嘲笑が浮かび上がった。
「助けてくれ、生命だけは取らないでくれ」
 与徹は小刻みに身体を震わせ、這って逃げようとする。既に腰が抜けて立てなくなっているのだ。
「た、助けてくれ。頼む。お前の望む物を与えるから」
 まだ生命乞いを続ける与徹の頬にスと光る切っ先が当てられた。男が手を動かすと、たるんだ与徹の白い頬に細い傷が走り、薄く血が滲む。
「ひっ、ひ、ひぃ」
 与徹は最早、声を発することもできない。
 光王は片手に持った長剣を振り上げた。
「人は死ぬ間際に一体、何を考えるのだろうな。お前がさんざん弄んで慰みものにした挙げ句、無情に括り殺した幼子の無念をお前もその身に味わうが良い」
 枕許に置かれた燭台の光が男の横顔を照らし出す。氷のような微笑、凄艶な美貌。
 恐怖に見開かれた与徹の唇からひと言、呟きが落ちる。
「―カ、光王(カンワン)」

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