
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第13章 十六夜の悲劇
自分の頬に刃が突きつけられているのを知り、与徹が細い眼を一杯に見開く。ヒと悲鳴が洩れた。
与徹の傍で眠っているのは、与徹寵愛の男妾である。こちらもろくに陽にも当たらず酒ばかり呑んでいるせいか、膚が異様に白んでいる。まだ、せいぜい十七、八ほどの歳であろう。
与徹が悲鳴を上げたせいで、男妾が眼を覚ました。こちらも騒ごうとするのを黒装束の男が鋭い一瞥をくれた。
「お前の生命まで取る気はない、とっとと失せろ」
男妾は聞くに堪えない金切り声を上げ、後も見ずに逃げ去っていった。
「お、おい」
与徹が呼び止めても、一度も振り返らなかった。どうやら若い男妾の頭にあるのは、自分の身の安全だけらしい。
与徹が必死に男に縋りついた。
「金なら、幾らでもやる。屋敷の蔵をすぐに開けさせるから、欲しいものがあるなら、何でも持ってゆけ」
与徹の声が震えている。恐怖に身をわななかせながら訴える与徹の脚許に俄に水たまりができた。恐怖のあまり、失禁したようだ。
与徹の傍で眠っているのは、与徹寵愛の男妾である。こちらもろくに陽にも当たらず酒ばかり呑んでいるせいか、膚が異様に白んでいる。まだ、せいぜい十七、八ほどの歳であろう。
与徹が悲鳴を上げたせいで、男妾が眼を覚ました。こちらも騒ごうとするのを黒装束の男が鋭い一瞥をくれた。
「お前の生命まで取る気はない、とっとと失せろ」
男妾は聞くに堪えない金切り声を上げ、後も見ずに逃げ去っていった。
「お、おい」
与徹が呼び止めても、一度も振り返らなかった。どうやら若い男妾の頭にあるのは、自分の身の安全だけらしい。
与徹が必死に男に縋りついた。
「金なら、幾らでもやる。屋敷の蔵をすぐに開けさせるから、欲しいものがあるなら、何でも持ってゆけ」
与徹の声が震えている。恐怖に身をわななかせながら訴える与徹の脚許に俄に水たまりができた。恐怖のあまり、失禁したようだ。
