
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第13章 十六夜の悲劇
ふいに声が途切れ、低い嗚咽が洩れた。
香花がハッとすると、景福が両手で顔を覆っていた。指と指の隙間から、流れ落ちる涙の雫が見えた。
「父さんは幼い昌福には優しかったけれど、僕には厳しく芸を仕込んだんだ」
景福が涙混じりの声で言った。
景福のナイフ投げは父親が最も得意としていたものだった。彼は父親から直伝で教わったのだ。今はまるで魔法のようにナイフを自在に操れる景福だが、始めたばかりの数年前はまだろくにナイフを扱うことすらできなかった。
もう僕にはできない、やりたくないと途中で駄々をこねた景福を、父親は殴った。
―甘えるなッ、芸人の子が芸をできなくて、どうやって生きてくっていうんだ?
それでも〝やりたくない〟と頑なに首を振り続ける景福の頬をもう一発父親が殴ろうとした時、その脚に昌福が縋りついたのだ。
―父ちゃん、止めて。兄ちゃんは一生懸命やってるんだ。
当時、景福は八歳、昌福は三つになったばかりだった。
―どきなさい。
顔をしかめる父親にも怯まず、昌福は父の脚に懸命にしがみつき、ついには父親も折れて、その場は事無きを得た。
香花がハッとすると、景福が両手で顔を覆っていた。指と指の隙間から、流れ落ちる涙の雫が見えた。
「父さんは幼い昌福には優しかったけれど、僕には厳しく芸を仕込んだんだ」
景福が涙混じりの声で言った。
景福のナイフ投げは父親が最も得意としていたものだった。彼は父親から直伝で教わったのだ。今はまるで魔法のようにナイフを自在に操れる景福だが、始めたばかりの数年前はまだろくにナイフを扱うことすらできなかった。
もう僕にはできない、やりたくないと途中で駄々をこねた景福を、父親は殴った。
―甘えるなッ、芸人の子が芸をできなくて、どうやって生きてくっていうんだ?
それでも〝やりたくない〟と頑なに首を振り続ける景福の頬をもう一発父親が殴ろうとした時、その脚に昌福が縋りついたのだ。
―父ちゃん、止めて。兄ちゃんは一生懸命やってるんだ。
当時、景福は八歳、昌福は三つになったばかりだった。
―どきなさい。
顔をしかめる父親にも怯まず、昌福は父の脚に懸命にしがみつき、ついには父親も折れて、その場は事無きを得た。
