
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第9章 燕の歌
明け方、香花は聞き慣れた声音に、眠りの底から引き上げられた。
「おい、起きろ、おいってば」
ゆるゆると瞳を開けば、そこには光王がいた。
「―光王?」
まだ十分に醒め切ってはいない頭と身体を精一杯稼動させようとする。
「香花、大変なことになった」
光王がこのところの険悪な雰囲気など忘れ果てたかのように囁く。
「な、なに?」
そのいつになく切迫した様子に、香花もただならぬものを感じた。およそ動転などしたことのない男がここまで蒼覚めるのは、よほどの事態になったとしか思えない。
「落ち着いて聞けよ。火事だ、使道の屋敷が燃えている」
「え―」
心臓が凍りつく。何か言おうとして、口だけがパクパクして言葉にならない。
「どうやら、息子と使道が掴み合いの喧嘩をやらかしてる最中に、運悪く使道が頭をぶつけちまって、亡くなったらしい。使道は妾としっぽりやってたところを、息子に話があると隣室に呼び出されたそうだ。一旦は息子に部屋を追い出された使道の妾が剣呑な雰囲気の二人を気にして見に行ったら、血まみれの使道と腑抜けたような息子が突っ立ってたと妾は言ってるようだが」
「う、嘘」
「おい、起きろ、おいってば」
ゆるゆると瞳を開けば、そこには光王がいた。
「―光王?」
まだ十分に醒め切ってはいない頭と身体を精一杯稼動させようとする。
「香花、大変なことになった」
光王がこのところの険悪な雰囲気など忘れ果てたかのように囁く。
「な、なに?」
そのいつになく切迫した様子に、香花もただならぬものを感じた。およそ動転などしたことのない男がここまで蒼覚めるのは、よほどの事態になったとしか思えない。
「落ち着いて聞けよ。火事だ、使道の屋敷が燃えている」
「え―」
心臓が凍りつく。何か言おうとして、口だけがパクパクして言葉にならない。
「どうやら、息子と使道が掴み合いの喧嘩をやらかしてる最中に、運悪く使道が頭をぶつけちまって、亡くなったらしい。使道は妾としっぽりやってたところを、息子に話があると隣室に呼び出されたそうだ。一旦は息子に部屋を追い出された使道の妾が剣呑な雰囲気の二人を気にして見に行ったら、血まみれの使道と腑抜けたような息子が突っ立ってたと妾は言ってるようだが」
「う、嘘」
