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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第5章 永遠の別離

「先生、私たち、これからどこに行くの?」
 林明の問いに、香花が何と応えようかと躊躇ったその時、前方から若い男の声が聞こえた。
「おやまア、こんな夜更けに若いお嬢さんが一人で何をしてるのかな」
 香花が愕いて顔を上げる。その瞳に映ったのは、三人連れの男だった。まだ二十代前半といったところで、頭に布を巻き、粗末な上衣とズボンを穿いている。どこかの屋敷の下男でもしているのか。
「お嬢ちゃん、可愛いね~、見たところ両班のお嬢さんのようだけど、何で真夜中に子ども連れでこんなところにいるの」
「まさか、この子たち、君の子どもじゃないよな」
 三人が代わる代わる口々に好き放題のことを言っている。
「馬鹿言えよ、どう見たって、姉弟(きようだ)妹(い)だろ」
 一人が言うと、もう一人が口を尖らせる。
「けど、全然似てねえぞ」
「この歳でまさか、こんな大きなガキがいるもんか。子どもがどうやって子どもを産むっていうんだよ」
 三人の男は顔を見合わせ、下卑た笑いを浮かべている。
 香花は端から無視を決め込んだ。
 立ち上がると、チマについた土埃を手で払い、林明と桃華に告げる。
「行きましょう」
 その前に背の高い、ひょろりとした男が立ち塞がった。
「ちょっと待てよ。どうせ家出娘なんだろ。俺たちのところに来ないか? 寝るところくらいあるぜ」
 香花がそれでも黙って行こうとすると、今度は別の小太りで小柄な男が更にすっと進み出て、通せんぼするように両手をひろげる。

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