
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第5章 永遠の別離
どれほど歩いただろう。あまり歩き慣れていない子どもを連れて歩くのは想像したよりも更に労を要した。屋敷を逃れてからもう随分と刻を経ているように感じられたが、星や月の位置から察するに、たいした時間は経っていないようだ。
「先生、もう、歩けないよ」
まず、真っ先に林明が音を上げた。
「林明は男でしょ。何を情けないことを言ってるの」
傍らの桃華が叱ると、林明がまたくずり出す。
「そなたの今の情けない姿をご覧になったら、父上も嘆かれるわよ?」
そのひと言が余計に林明の哀しみを煽ったらしい。それでなくとも、林明は尊敬していた父親が国王殿下に謀意を抱いていたことに、とても打撃を受けているのだ。
「父上、父上」
声を上げて泣き出してしまった林明の頭を撫で、香花はわざと明るい声で言った。
「じゃあ、ここら辺で少し休みましょうか」
その声に、林明が現金にピタリと泣き止む。
近くに手頃な松の樹があったので、その根元に三人で座り込む。緑の枝の向こうに、頼りなげな黄褐色の月が浮かんでいた。
「先生、お腹空いた」
香花は微笑んで、風呂敷包みを解くと、揚げパンを一つ渡してやる。囚われの身となっている父のことを心配して、林明は夕飯もろくに手をつけていない。腹が空くのも当たり前だ。
「あなたって、本当にどうしようねない子ね」
一方、桃華は苛立ちをぶつけるように林明にきつく当たる。桃華は桃華で懸命に状況を受け容れよう、香花の荷物になるまいと健気にふるまっているのだ。
「先生、もう、歩けないよ」
まず、真っ先に林明が音を上げた。
「林明は男でしょ。何を情けないことを言ってるの」
傍らの桃華が叱ると、林明がまたくずり出す。
「そなたの今の情けない姿をご覧になったら、父上も嘆かれるわよ?」
そのひと言が余計に林明の哀しみを煽ったらしい。それでなくとも、林明は尊敬していた父親が国王殿下に謀意を抱いていたことに、とても打撃を受けているのだ。
「父上、父上」
声を上げて泣き出してしまった林明の頭を撫で、香花はわざと明るい声で言った。
「じゃあ、ここら辺で少し休みましょうか」
その声に、林明が現金にピタリと泣き止む。
近くに手頃な松の樹があったので、その根元に三人で座り込む。緑の枝の向こうに、頼りなげな黄褐色の月が浮かんでいた。
「先生、お腹空いた」
香花は微笑んで、風呂敷包みを解くと、揚げパンを一つ渡してやる。囚われの身となっている父のことを心配して、林明は夕飯もろくに手をつけていない。腹が空くのも当たり前だ。
「あなたって、本当にどうしようねない子ね」
一方、桃華は苛立ちをぶつけるように林明にきつく当たる。桃華は桃華で懸命に状況を受け容れよう、香花の荷物になるまいと健気にふるまっているのだ。
