
恋は甘い香りと共に
第1章 はじまり
おずおずと2、3歩こちらに歩いてきた奈津美ちゃんの腕をとり引き寄せた。
俯いたままの奈津美ちゃんの顔をあげさせてその左頬に平手打ちをする。
力加減をしたせいか、ペチッと軽い音しかしなかった。
が、奈津美ちゃんの目には涙がたまっていく。
「…何やってんの」
ゴオウ…という微かな換気扇の音しかしない空間の中で私の声が響いた。
奈津美ちゃんは再び俯き、何も言わない。
「彼氏いるんでしょう?大好きなんでしょう?」
もちろん中村翔も何も言わない。
奈津美ちゃんは小さく縦に頷いた。
その拍子に彼女の足元に水滴が一滴落ちて、コンクリートに吸い込まれていく。
「…店、戻って」
