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掌の浜辺

第1章 春 - story -

26.前段階

 「ペリ-は化学変化だ」
 笑った人が多かった。先生は教室の中央に移動する。
 「ちょっと先ほどの連想ゲ-ムの暗記度を確認してみましょう」
 先頭の列の、とある学生にマイクを向けた。
 「いいですか?」
 「だめです」
 笑いは絶えない。
 「ああ、そうでしたか。すみません。では後ろに座ってらっしゃる学生さん?」
 「はい?」
 「さっきの連想ゲ-ムの暗記度を確認したいのですが」
 「はい」
 「あなたが覚えている範囲で結構です。連想ゲ-ムで言っていた言葉で覚えているところを言って頂けますか?」
 学生、うなずく。少しうなって考える。
 「ペリ-、黒船、海賊、食べ放題…」
 思い出せない。もう忘れた。
 「忘れました」
 「はい。ありがとうございます」
 先生が後ろの席の方へ行く。
 「おお、どんな漫画を読んでらっしゃるのですか?」
 声をかけられた学生は何も言えずにいた。怒られるのではないかと思ったからだろう。でもこの先生は学生が何をしていたって怒らない。それどころか、その状況に応じて発想を換えて授業を進めていく。こういうやり方ってすごい。
 「え、普通のマンガですけど」
 「隣の学生さんはご友人ですか?」
 「はい」
 「彼女さんにそのマンガを開いたままお渡し頂けますか?」
 渡して頂けた。そして先生は小声で2人にだけ聞こえるように
 「では質問します。3ペ-ジ前からその漫画の物語について説明をお願いできますか?」
 「え、何だっけ…」
 彼女はそう言ったが、小さな声ですぐ言葉を発した。
 「脇役の男の人が親友のお墓参りに来ているところの絵があって、そこで何か色々あって、また別のシ-ンになって車に乗りながら2人の男の人が会話している感じ?です」
 「ありがとうございます。隣の学生さん?」
 「はい」

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