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異種間恋愛

第20章 契約の内容

 誰にでも優しいわけじゃない。
 本当に優しければこんな根拠のない約束はしないだろう。
 分かっていても、なんとかしたいという気持ちのほうがはやり、私は再びラドゥの頭を包み込んでいた。
「俺はお前にあんなことをしたんだぞ」
「黙ってって言ったでしょ」
「……」
 私は王子の頭を撫でた。
 癖のある黒髪が私の手で形を変える。頭をぎゅうっと抱きしめるとラドゥが小さな子供のように思えて胸が締め付けられた。
 こんな儚く脆い存在がこの世にあるなんて。私は王子の想いを何ひとつ知らなかった。
 私の両親の死。フローラさんの恋人の安否も。連れてこられた労働者たちの現状。そして、レオの気持ちも私の胸に染みこんでいる。
 気になる。
 気になる。

 すごく、気になる。
 その心配たちが重なりすぎて私の頭を混乱させようとするけれど、それよりも目の前にいるラドゥをこうして感じていると頭が麻痺して、王子のことしか考えられなくなってしまいそうになる。

「ラドゥ、何かほしいものはある?」
 そう聞くと顔を上げて私を見た。
 眉を下げて、いつもより弱気な表情だ。
「ほしい、もの」
「うん。なんでも言ってみて。したいことでもいいわよ」
 ラドゥは少し考えてから口を開いた。
「本を……」
 読んでくれないか。
 消え入りそうな声で頬を赤らめ俯き言ったラドゥが可愛く思えた。

 私はラドゥが引っ張り出してきた絵本を何冊も何回も繰り返して読んだ。

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