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異種間恋愛

第20章 契約の内容

 どんな呪いにも期限はある。アスリアス王国を支配するこの呪いの契約期限はティオン、いや、レオが人間の姿に戻る時だった。
 グラドが悪魔と交わした契約では、レオが人間に戻れば現王子の体を報酬としていただく、つまりラドゥの人格が失われ悪魔が体を乗っ取ることが条件となっていたらしい。
 グラド以降、歴代の王位継承者には体のどこかに悪魔との契約を意味する痣が出てくるらしく、それがラドゥにもあった。
 そこまでは王子である以上なんら疑問を持つことではなかった。問題はその痣がどんどん形をさらに複雑なものにし、広がってくるときが悪魔に体を奪われる前兆だった。
 レオが城に来てから、ラドゥの痣は広がっている。

「え、悪魔……に体を奪われるって、ラドゥはどうなるの」
 ラドゥは嘲笑って頭を揺らした。癖のある黒髪がふわりと揺れる。
「この世から、消える。もしくは、俺の体の中に残るが体を自由に動かすことができないのか、どっちかだろうな。とにかくこの体は俺のものじゃなくなるんだ」
 自分の体があるのに、自己が失われる。
 それは死と同じなのか、死よりも……悲しいことなのか。
「いつから、そのことを知ってたの?」
「ティオンを見たときに、逸話じゃないって気付いた」
 ラドゥはそう言って、自分の髪をくしゃりと乱暴にかきむしった。
「別にいいんだ。こんな退屈な世界、俺にはもう必要ない。飽きたんだ」
「ラドゥ……」
 そんな悲しい顔で言われても信じられるはずがない。
 今まで底なしに楽観的で明るく、傲慢なラドゥの言動が蘇ってきた。
 楽しそうにフェンシングで汗を流すラドゥは本当に生き生きしていて、こんな運命を認めている人間には見えなかった。
 遠慮なく思ったことを口にするラドゥには時折、苛立たされたけれど、その言葉に偽りはなく真の言葉だった。
 私のことをいつも馬鹿にして意地の悪いことをしていた。
 あの日、私に酷いことをした時も……。
 ラドゥが口を開いた。
 聞こえてきたのはみっともないくらい強気な言葉と誇らしげに震えた声だった。
「怖くなどない。辛くもない。楽しみなくらいだ。俺が消えた先に俺がどうなるのか」
「もういいっ。黙ってて。私が……あなたを助けるから」

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