
激愛~たとえ実らない恋だとしても~
第6章 第二話・其の弐
それにしては、少々軽薄そうな印象は否めないが―。不思議と憎めない飄々とした雰囲気を漂わせた男である。
「おや、天下に名だたる色男、この私の名をご存じないとは何と嘆かわしい」
男は大仰に天を仰ぎ、片手を額に当て嘆いて見せる。一々、科白も仕草も大袈裟で芝居がかった男だ。黙って立っていれば、それなりの美男で通るのに、これでは折角の男前も身に備わった気品も台無しである。
「失礼致しました。歌舞伎役者がこのような場所においでになられるとは思いもしませず」
これだけの品、存在感を示す男がただの歌舞伎役者であるはずもないのは判っているのに、美空はぬけぬけと言い放った。
「おや、これは手厳しい。流石はあの孝太郎どののお選びになった女人だけはあるな」
男が破顔したままで言う。痛烈な皮肉に少しも動じもせず、気を悪くする風もない。大物なのか、それとも、馬鹿なのか判断に苦しむところであった。
ちなみに孝太郎という名は、孝俊の幼名、つまり前髪立ちの頃の呼び名でもある。その名を知るからには、孝俊の知り人なのだろうか。
美空がそんなことを考えていると、男が優雅に腰を折った。
「まあ、いきなり声をかけて名乗らなかったのは、こちらの非礼であることに変わりはない。申し遅れました、私の名は松平俊昭」
「松平―俊昭さま」
美空にとっては初めて聞く名だ。
男は小さく肩をすくめた。
「孝太郎どのも薄情な。従弟の名前くらい、嫁女に教えてやれば良いものを」
「あなたさまは殿の、孝俊さまのお従弟さまにございますか」
何故、この男が平然と奥向きにいるのか漸くその理由が判った気がする。
美空が問うと、俊昭はまた笑った。
「従弟さまなんて、そんなたいそうなものじゃない。マ、孝太郎どのと私の父が兄弟ゆえ、確かに血筋では従弟になるが、大方、この不肖の従弟のことなぞ孝太郎どのは、とうにお見限りであろうて」
俊昭は屈託ない笑顔で物騒なことを言い、美空を見る眼を眇めた。
「おや、天下に名だたる色男、この私の名をご存じないとは何と嘆かわしい」
男は大仰に天を仰ぎ、片手を額に当て嘆いて見せる。一々、科白も仕草も大袈裟で芝居がかった男だ。黙って立っていれば、それなりの美男で通るのに、これでは折角の男前も身に備わった気品も台無しである。
「失礼致しました。歌舞伎役者がこのような場所においでになられるとは思いもしませず」
これだけの品、存在感を示す男がただの歌舞伎役者であるはずもないのは判っているのに、美空はぬけぬけと言い放った。
「おや、これは手厳しい。流石はあの孝太郎どののお選びになった女人だけはあるな」
男が破顔したままで言う。痛烈な皮肉に少しも動じもせず、気を悪くする風もない。大物なのか、それとも、馬鹿なのか判断に苦しむところであった。
ちなみに孝太郎という名は、孝俊の幼名、つまり前髪立ちの頃の呼び名でもある。その名を知るからには、孝俊の知り人なのだろうか。
美空がそんなことを考えていると、男が優雅に腰を折った。
「まあ、いきなり声をかけて名乗らなかったのは、こちらの非礼であることに変わりはない。申し遅れました、私の名は松平俊昭」
「松平―俊昭さま」
美空にとっては初めて聞く名だ。
男は小さく肩をすくめた。
「孝太郎どのも薄情な。従弟の名前くらい、嫁女に教えてやれば良いものを」
「あなたさまは殿の、孝俊さまのお従弟さまにございますか」
何故、この男が平然と奥向きにいるのか漸くその理由が判った気がする。
美空が問うと、俊昭はまた笑った。
「従弟さまなんて、そんなたいそうなものじゃない。マ、孝太郎どのと私の父が兄弟ゆえ、確かに血筋では従弟になるが、大方、この不肖の従弟のことなぞ孝太郎どのは、とうにお見限りであろうて」
俊昭は屈託ない笑顔で物騒なことを言い、美空を見る眼を眇めた。
