テキストサイズ

いつもそこには、君がいて

第2章 2 水曜日


 大きく息を吸い込むと、福田さんの顔の斜め上では、白っぽくてきれいな円い月がこちらを向いて笑ってるのが見えた。

「あれ、今日は満月ですかねぇ」

「ん? あ、ほんとだ」

 福田さんもまんまるな月に向いた。

「私、なんか変な意地を張ってたのかもしれないです」

「意地、ですか……」

 二人とも月に顔を照らされながら話を続けた。

 私はもしかすると「言い訳ばっかりするな」という三上さんの言葉を、ちょっと履き違えていたのかもしれない。

 よく考えれば無理な話なのに、すべて自分で解決しようと足掻いて、しまいには自分の首を自分で締めて、落ち込んで……

 挙げ句に福田さんや菊川くんに当たってしまった。

 私が希望したあの異動は、もう無理だとさじを投げたようにみせた、ただの強がりで。

 “助けてください”と素直に言えない、十年選手のちょっと曲がったプライドだったのかも。

 それから内示に対するモヤモヤだって、引き止めてくれないかなとか、淋しいなとかっていう、精肉に対する愛着だったりもするわけで。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ