
いつもそこには、君がいて
第2章 2 水曜日
涙というのは一旦流れ始めてしまうと、なかなか止めようとしても止まらないもので、さっきまで菊川くんと福田さんが一服をしていた灰皿替わりの空き缶が、まるでモザイク画みたいに、涙を拭くたび足元にちらっちらっと見えていた。
ああ、もうやだな、泣くなんて。
そう思っても、ますます出てくる。
1月の夜の冷たい外気は、体の中に入るとすぐ、熱い嗚咽に変化した。
今までだって、泣きたい時は両手両足の指を折っても足りないくらいあったのに、泣きたくない今日に限ってこんなに涙が溢れてくるのは、どこまでも自分がひとりぼっちに思えてくるからだろうか。
「峰さん?」
通用口が開く軋んだ音と同時に、私を呼ぶ福田さんの声が背中にかかった。
「すみません……あのっ……」
だめだ、涙は全然止まってくれない。
氷点をとっくに下回った薄暗い店の裏手で、ブルゾン姿の三十路の女が泣いている……ってどれだけの名女優が演じたって絵になりゃしない。
しかも、ただでさえすっぴん同然で見せられない顔なのに、今の私はぐちゃぐちゃで、きっと自分の目さえ当てられない有様だ。
