テキストサイズ

contract

第16章 case7 【貴方ニ引キ摺ラレル】 1

「・・・余裕ねえなぁ、斎」

ぽつり、とまた声が後から聞こえる。

私を散々翻弄して、反抗できないところまで脱力したのを見越して、漸く唇が離れる。

「絢乃を絶えず食わないと死ぬ」

「・・・へえ?精神安定剤?」

「薬じゃなくて食事。必要な栄養素」

「ただし中毒性抜群、ってヤツだな」

少しずつ酸素が脳に回ってきたので、乱れかかった服をある程度直し、体の向きを反転させる。斎は私の身体に腕を絡めたまま、話そうとはしない。

見た目20代後半から30代前半の男。火のついてない煙草を口にくわえ、右手にはジッポ。

・・・誰?

初めて見る顔。ラフな着こなしはオトナの男をイメージさせる。屋敷内の人には見えないし、学校内でも見た事のない顔。

「何時来た?」

「さっき。声かけようとしたら盛ってたから、見物」

「で?」

「お前との付き合いは、それなりに長い筈なんだが、珍しいモノを見たな」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ