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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第9章 生まれ変わる瞬間

「滅多なことは言わぬ方が良いぞ、趙尚凞どの。そなたの方こそ、国王殿下の臣でありながら、王室に納めるべき税を邪(よこしま)に着服しておったということは、これ即ち殿下への叛意ありと見なされても致し方ないのではないか?」
 若者がどこか凄みのある声で断じた。
「な、なっ、何を申す。この儂が不当に税を着服しておると申すのか!?」
 県監が憤怒の形相で叫ぶのに、若者はしたり顔で頷いた。
「さよう」
「そのような馬鹿げた話など、聞く価値もない」
「そうかな?」
 若者が意味深な顔で小首を傾げた。
「一体、何の根拠があって、貴様はそのような出たらめを滔々と述べ立てるのだ。証拠もないのに、儂を貶めるつもりか」
 県監が真っ赤になって吠える。
 若者は優雅に微笑むと、ゆっくりと応えた。
「証拠? 証拠なら山ほどもある」
 彼が眼顔で頷くと、孔インスが畏まって頭を下げる。インスはひと度姿を消し、すぐに大きな木箱を抱えて戻ってきた。
 インスはその木箱を降ろし、蓋を開ける。中から何やら取り出して、恭しく若者に渡した。
「尚凞どのの屋敷の蔵を調べさせたら、ほれ、このとおり、宝の山が出て参った。それこそ、証拠の品が山ほどもな」
 尚凞の顔色が一瞬、変わった。しかし、そこは海千山千の男のこと、素知らぬ顔で言った。
「ええい、誰の許可を得て、そのような勝手をするのだ! これほどの恥辱を受けて、儂がおめおめ引き下がると思うなよ。この無礼を儂は断じて揺るさんからな」
「あくまでシラを切り通すつもりか? あの蔵の中の品々はすべて近隣の村々から不当に搾取した財物ばかり。そなたは、これらの横領品を地方両班に高値で売りつけ、暴利を貪っていた。そなたの悪政のお陰で、民は疲弊し、困窮の極みにある。これだけの証拠を突きつけられても、そなたはまだ己れの罪を認めぬというか」
「くっ」
 尚凞が悔しげに赤い顔を歪めた。が、次の瞬間、すぐに体勢を立て直すところはしぶといというか、流石といおうか。

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