
山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第9章 生まれ変わる瞬間
自分はまた安易な計画を立て、失敗した。文龍の夢や志を実現するどころか、暗行御使としての任務に失敗したのだ。最悪の場合、県監の手下に殺される前に、いや、再び捕らえられて県監に慰み者にされてしまう前に、自ら生命を絶つつもりであった。
「お前が無事に戻ってきて、良かった」
インスが凛花の髪を撫でた。
「凛花を信じていないわけではなかったが、どうにも不安でならなかったんだ。県監は想像以上に狡猾で冷酷な男だ。長年、あの男の下で働いてきた俺は誰よりもよく知っている。じっと家で待っていても、居たたまれなくて、気がついたら家を飛び出していたよ」
凛花はゆっくりと身を起こした。
「おい、まだ寝てないと駄目だぞ? せめて今夜くらいは何もかも忘れて、ゆっくりと眠れ」
「ありがとう。インスが来てくれなかったら、今頃、私はどうなっていたか判らない」
「礼なんか良い。お前の無事な姿をこうして見ていられるだけで、俺は幸せなんだ」
インスがしみじみと言い、ふと凛花の胸許に眼を止めた。
凛花がハッとした表情でインスを見返す。
凛花はまだ県監の屋敷で身につけていた夜着を着ていた。しかし、適当に羽織って前をかき合わせただけだ。
緩んだ衿許はしどけなく、下から白い胸乳がかいま見えている。わずかに覗く豊かなふくらみには紅い花びらのような斑点が散っていた。
凛花は改めて胸に残る汚辱の烙印に気づき、蒼褪めた。
「インス、これは―」
狼狽えて前をかき合わせ、涙ぐんだ。
「凛花、一つだけ訊いても良いか? 県監はお前を」
インスは言いかけて、首を振った。
「いや、良い」
その表情がいつになく硬いのを見て、凛花は暗澹とした。
インスは私が県監に穢されたと思っているのだ―。
嫌われたくないという想いがよぎり、凛花は夢中で訴えた。
「私は何もされてないの。本当に何もなかったの」
懸命に胸許を隠そうとする凛花に、インスの強ばっていた顔がふっと緩んだ。あまりの不憫さに、インスの方が泣きそうになったほどだった。
「お前が無事に戻ってきて、良かった」
インスが凛花の髪を撫でた。
「凛花を信じていないわけではなかったが、どうにも不安でならなかったんだ。県監は想像以上に狡猾で冷酷な男だ。長年、あの男の下で働いてきた俺は誰よりもよく知っている。じっと家で待っていても、居たたまれなくて、気がついたら家を飛び出していたよ」
凛花はゆっくりと身を起こした。
「おい、まだ寝てないと駄目だぞ? せめて今夜くらいは何もかも忘れて、ゆっくりと眠れ」
「ありがとう。インスが来てくれなかったら、今頃、私はどうなっていたか判らない」
「礼なんか良い。お前の無事な姿をこうして見ていられるだけで、俺は幸せなんだ」
インスがしみじみと言い、ふと凛花の胸許に眼を止めた。
凛花がハッとした表情でインスを見返す。
凛花はまだ県監の屋敷で身につけていた夜着を着ていた。しかし、適当に羽織って前をかき合わせただけだ。
緩んだ衿許はしどけなく、下から白い胸乳がかいま見えている。わずかに覗く豊かなふくらみには紅い花びらのような斑点が散っていた。
凛花は改めて胸に残る汚辱の烙印に気づき、蒼褪めた。
「インス、これは―」
狼狽えて前をかき合わせ、涙ぐんだ。
「凛花、一つだけ訊いても良いか? 県監はお前を」
インスは言いかけて、首を振った。
「いや、良い」
その表情がいつになく硬いのを見て、凛花は暗澹とした。
インスは私が県監に穢されたと思っているのだ―。
嫌われたくないという想いがよぎり、凛花は夢中で訴えた。
「私は何もされてないの。本当に何もなかったの」
懸命に胸許を隠そうとする凛花に、インスの強ばっていた顔がふっと緩んだ。あまりの不憫さに、インスの方が泣きそうになったほどだった。
