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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第9章 生まれ変わる瞬間

―時には忘れることも必要なのだよ。
 文龍を失った直後、確か父がそんなことを言っていた。そのときの凛花はあまりに深い絶望のどん底にいたゆえ、父の心からの言葉も到底、受け入れられるような気分ではなかった。左副承旨(チヤフクスンジ)の父は真正直すぎて出世もできないような人だけれど、凛花は心から父を尊敬している。
 父を思い出すと、亡くなった乳母や乳姉妹のナヨン―大切な人たちの面影が次々と甦ってくる。
 凛花は改めて思った。
 生きたい、生きたい、と。
 自分は今、ここで死ぬわけにはゆかない。
 強く願うやいなや、それまで鉛のように重かった身体がふわりと軽くなった。凛花は手脚が自由に動くようになったのを確かめると、自在に身体を動かして泳いだ。
 高みへ高みへ、水をかき分けて上っていった。

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