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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第9章 生まれ変わる瞬間

 だが、外見に騙されてはいけない。この男は不当に民衆から搾取した海産物、米などを蔵にしまい込み、高値をつけて地方の両班に売りつけては暴利を貪っているのだ。通常、両班が裏商いをするときは大商人と結託しているものだが、どうやら、この男は己れ一人で何もかもやっているらしい。つまり、直接、客と値の交渉をし、取引をして売買を行っているのだ。
 商人と組めば、利益も折半しなければならないし、やはり商いにかけては敵わない。不当に利益を奪われてはと警戒してのことだ。全く、呆れるほど強欲な男である。
 また、合間には領地の村町から気に入った娘を攫ってくる。県監に犯された挙げ句、殺された娘たちは調べた限り、二年間で十数人に上っている。
 各地方官は民が納めた貢納品を都に送り、王室に納めねばならない。しかし、県監は決められた量だけ納め、膨大な残りの品は蔵にしまい込むのだ。取り立てた量と都に送る量は帳簿の上では何の問題もない。
 が、穏当な取り立てを行っている割には、県監の治める領地に暮らす民たちの疲弊があまりにも烈しすぎる―、そんな上訴が他の地方の県監から送られてきたのである。それが国王の疑念を招き、今回の暗行御使派遣に繋がった。むろん、御使を実際に送り込むまでにも、何度か上訴した別の県監の許に書状を送り、現状について綿密に訊ねている。
 その結果、どうやらその者の言い分にかなりの信憑性があるということで、国王が議政府の三政丞に暗行御使派遣の王命を下したのだ。もちろん、領地の若い娘たちへの酷い所業も既に国王の知るところとなっているのは言うまでもない。
 呑まねば機嫌が悪くなるので、凛花はつい盃を重ねることになった。呑むほどに身体が火照り、頭が霞んでゆく。
 凛花の白い透き通る膚は今やうっすらと上気し、桜色に染まっている。黒曜石を思わせる双眸は潤んで、月の光を宿しているかのように冴え冴えと煌めいていた。
「何と美しい」
 尚凞が息を呑んだ。酒を呑む前は清楚な美少女の初々しさを好ましいと思ったのに、今は別人のように凄艶な色香を放っている。
「最初は最初で良かったが、やはり、こちらの方が色香溢れて良いのぅ」

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