
山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第9章 生まれ変わる瞬間
「何だ、恥ずかしがっておるのか?」
突如、県監が手を伸ばし、凛花を抱き寄せる。凛花はあまりの急展開に身を縮めた。
「そう申せば、そなたは今日、道端で逢うたときも恥じらっておったの。真にかわゆい娘だ。時に、そなたは幾つにあいなる?」
県監は再び機嫌を直し、凛花に問いかけてくる。
凛花は愛らしく小首を傾げて見せた。
「ホホウ、ウンニョの話は真であったか。可哀想にこれほどの美貌でありながら、頭がイカレておるとは。自分の歳も判らぬとは、不憫だのう。この様子では、男女のことも何も知らぬのだろうな。よしよし、儂が手取り脚取り、そなたの身体にみっちりと教え込んでやるからの」
嫌らしげな視線で身体中を舐め回すように見られ、思わずザッと鳥肌が立った。
「まずは一献、呑むが良い」
県監は凛花に盃を持たせ、並々と酒を注いだ。
「どうした?」
微動だにせぬ凛花を県監が訝しげに見る。
凛花は県監を見つめながら、ゆっくりと首を振った。酒は呑めないのだ意思表示をしたつもりだ。
しかし、県監の顔がすっと蒼褪めた。
「そなたは儂の酒が飲めぬというのか?」
凛花は〝違う〟というように烈しく首を振る。が、県監は額に癇性に青筋を浮かべ、凛花を冷ややかな眼で睨(ね)めつけている。
凛花は困惑し、両手に持った盃を見つめた。
この間、インスに勧められて一杯呑んでみただけでも、大変なことになった。多分、体質的に酒を受けつけないのだろう。
けれど、今ここで県監の要求を拒めば、県監を怒らせてしまうことになる。そうなっては折角ここまで来たことが水の泡になる。
凛花はありったけの勇気と気力を集め、盃を煽った。強い酒が喉をすべり落ちてゆく。白い喉が動くその様を、県監は陶然と眺めていた。
元々、嗜虐趣味のある男だ。
趙尚凞という男は、凛花が想像していたのとは大分違っていた。まず、想像していたより、ずっと若い。むろん、尚凞の実年齢は心得ていたが、四十五歳という年齢が持つ思慮深さと男盛りの色香を―少なくとも外見だけは備えているように見えた。
容貌もそこそこ整っている。身長もかなり高く、これで人間がまともであれば言うことはないだろうといえた。
突如、県監が手を伸ばし、凛花を抱き寄せる。凛花はあまりの急展開に身を縮めた。
「そう申せば、そなたは今日、道端で逢うたときも恥じらっておったの。真にかわゆい娘だ。時に、そなたは幾つにあいなる?」
県監は再び機嫌を直し、凛花に問いかけてくる。
凛花は愛らしく小首を傾げて見せた。
「ホホウ、ウンニョの話は真であったか。可哀想にこれほどの美貌でありながら、頭がイカレておるとは。自分の歳も判らぬとは、不憫だのう。この様子では、男女のことも何も知らぬのだろうな。よしよし、儂が手取り脚取り、そなたの身体にみっちりと教え込んでやるからの」
嫌らしげな視線で身体中を舐め回すように見られ、思わずザッと鳥肌が立った。
「まずは一献、呑むが良い」
県監は凛花に盃を持たせ、並々と酒を注いだ。
「どうした?」
微動だにせぬ凛花を県監が訝しげに見る。
凛花は県監を見つめながら、ゆっくりと首を振った。酒は呑めないのだ意思表示をしたつもりだ。
しかし、県監の顔がすっと蒼褪めた。
「そなたは儂の酒が飲めぬというのか?」
凛花は〝違う〟というように烈しく首を振る。が、県監は額に癇性に青筋を浮かべ、凛花を冷ややかな眼で睨(ね)めつけている。
凛花は困惑し、両手に持った盃を見つめた。
この間、インスに勧められて一杯呑んでみただけでも、大変なことになった。多分、体質的に酒を受けつけないのだろう。
けれど、今ここで県監の要求を拒めば、県監を怒らせてしまうことになる。そうなっては折角ここまで来たことが水の泡になる。
凛花はありったけの勇気と気力を集め、盃を煽った。強い酒が喉をすべり落ちてゆく。白い喉が動くその様を、県監は陶然と眺めていた。
元々、嗜虐趣味のある男だ。
趙尚凞という男は、凛花が想像していたのとは大分違っていた。まず、想像していたより、ずっと若い。むろん、尚凞の実年齢は心得ていたが、四十五歳という年齢が持つ思慮深さと男盛りの色香を―少なくとも外見だけは備えているように見えた。
容貌もそこそこ整っている。身長もかなり高く、これで人間がまともであれば言うことはないだろうといえた。
