
山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第9章 生まれ変わる瞬間
「口を慎みなさい。幾ら頭の弱い娘の前でも、不用意に口をすべらせては駄目よ。私たちからこのお屋敷の内情がバレたと旦那さまに知られれば、お前だけでなく私までもが始末されるわ」
〝始末〟という物騒な響きを帯びた言葉を聞くなり、若い女中は泣きそうに顔を歪めた。
「ですから、滅多なことをいうものではない」
若い女中は持ち前の陽気さなどどこへやら、凛花が見ても気の毒になるくらい蒼褪めて頷いた。
その後、凛花はウンニョと若い女中の介添えで湯浴みをした。真紅の山茶花の花びらが無数に浮いている浴槽で身体を浄め、若い女中に磨き立てられたかと思ったら、最後にはご丁寧に香油まで丹念に塗り込まれた。
仕上げは薄化粧まで施され、純白の夜着を着せられ、県監の閨に送り込まれる。
県監に囚われた娘たちはよほど厭がったと見え、ウンニョと若い女中は寝所の前まで凛花を連れてくると、ひそひそ声で囁き交わしている。
「今夜は助かりますね、ウンニョさま。今までの娘たちは皆、ここまで来ても観念せずに泣いたり喚いたり大変でしたもの。私たち二人でいつも厭がる娘を旦那さまのご寝所に押し込めていたじゃありませんか」
「そうだったわね。それを思えば、今度の娘は大人しく言うことをきいてくれるから良いわ」
「でも、こんな子で本当に旦那さまのお相手が務まるんですかねぇ。だって、本当にのほほんとして何も判ってはいないようですよ? 幾ら見かけが綺麗でも、ここまで頭が空っぽじゃ、旦那さまも興醒めなのではありませんか?」
「良いのよ、うちの旦那さまは顔が綺麗で若ければ、それで良いのだから。この娘は知能は幼児並みだけれど、どうやら身体の方は十分大人なようだし、旦那さまもお気に入るでしょう」
全く言いたい放題だが、彼女たちにしてみれば、毎回、攫ってきた娘たちを宥めすかせるのに相当手こずっていたのだろう。県監は、この近隣でも好色で残忍だと知られている。その県監の夜伽の相手を務めさせられるのだと知って、平静でいられるはずがない。
「良いか? 繰り返すが、旦那さまが何をなさっても、けして逆らってはならぬぞ? 明日、家族の待つ我が家に無事帰りたければ、私の言うとおりにしなさい」
もう、これで幾度になるか判らないほど聞かされた科白である。
〝始末〟という物騒な響きを帯びた言葉を聞くなり、若い女中は泣きそうに顔を歪めた。
「ですから、滅多なことをいうものではない」
若い女中は持ち前の陽気さなどどこへやら、凛花が見ても気の毒になるくらい蒼褪めて頷いた。
その後、凛花はウンニョと若い女中の介添えで湯浴みをした。真紅の山茶花の花びらが無数に浮いている浴槽で身体を浄め、若い女中に磨き立てられたかと思ったら、最後にはご丁寧に香油まで丹念に塗り込まれた。
仕上げは薄化粧まで施され、純白の夜着を着せられ、県監の閨に送り込まれる。
県監に囚われた娘たちはよほど厭がったと見え、ウンニョと若い女中は寝所の前まで凛花を連れてくると、ひそひそ声で囁き交わしている。
「今夜は助かりますね、ウンニョさま。今までの娘たちは皆、ここまで来ても観念せずに泣いたり喚いたり大変でしたもの。私たち二人でいつも厭がる娘を旦那さまのご寝所に押し込めていたじゃありませんか」
「そうだったわね。それを思えば、今度の娘は大人しく言うことをきいてくれるから良いわ」
「でも、こんな子で本当に旦那さまのお相手が務まるんですかねぇ。だって、本当にのほほんとして何も判ってはいないようですよ? 幾ら見かけが綺麗でも、ここまで頭が空っぽじゃ、旦那さまも興醒めなのではありませんか?」
「良いのよ、うちの旦那さまは顔が綺麗で若ければ、それで良いのだから。この娘は知能は幼児並みだけれど、どうやら身体の方は十分大人なようだし、旦那さまもお気に入るでしょう」
全く言いたい放題だが、彼女たちにしてみれば、毎回、攫ってきた娘たちを宥めすかせるのに相当手こずっていたのだろう。県監は、この近隣でも好色で残忍だと知られている。その県監の夜伽の相手を務めさせられるのだと知って、平静でいられるはずがない。
「良いか? 繰り返すが、旦那さまが何をなさっても、けして逆らってはならぬぞ? 明日、家族の待つ我が家に無事帰りたければ、私の言うとおりにしなさい」
もう、これで幾度になるか判らないほど聞かされた科白である。
