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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第9章 生まれ変わる瞬間

 凛花はそう思いながら、眼を開いた。
 どうも、袋からはとうに出されたようで、今はどこかの室に転がされている。相も変わらず手は縛られた状態だが、猿轡と足枷は既に解かれていた。
 二人の女が立って凛花を見下ろしながら、話している。
「あら、ウンニョさま。眼を覚ましたようです」
 十六歳ほどの若い女中が言い、傍らの年配の女が鹿爪らしく頷いた。
「手の縄も解いてやりなさい」
 年嵩の女はウンニョというらしい。ウンニョの命で、若い女中が凛花の手の縄も解いてくれた。
「お前、私の話していることは判るわね?」
 ウンニョがあたかも三歳児を相手にするように話しかけてくる。どうもこれは完全に知恵遅れの娘だと勘違いされているようだ。
 が、これは良い兆候かもしれない。相手が勝手に思い違いをしてくれたのだから、このまま何も判らない娘のふりをしてみよう。
 凛花は黒いつぶらな瞳を一杯に開き、コクコクと頷いた。
「やっぱり、ウンニョさま。この子、ちょっとこっちが―」
 若い娘が自分の頭を人さし指で突(つつ)いて、ウンニョにしきりに目配せしている。
 コホンとわざとらしい咳払いで若い女中を黙らせ、ウンニョは凛花に愛想笑いを向けた。
「お前は今夜、大切なお役目を申しつけられることになりました。もしかしたら、お前にとってはあまり愉しいものではないかもしれないが、今夜ひと晩辛抱すれば、明日の朝にはたくさんご褒美を貰えるでしょう。良いですか、県監さまが何をおっしゃろうと、何をなさろうと、お前はすべて黙って従わねばならないのですからね」
「はい(イエー)」
 凛花は応えると、にこりと笑った。
「何だか可哀想ね。これだけ何も判っていない娘を旦那さまのご寝所に送り込むなんて、罪悪感を感じるわ」
 ウンニョが洩らし、若い女中は神妙な顔で頷いている。
「ま、私たちの役目は所詮、この娘を旦那さまがせいぜいお気に召すように支度させることだから」
「そうですよ、後はチルリョさまたちが万事、うまく片付けてくれますって。そういえば、この間の娘も山茶花村から攫ってきた娘でした―」
 シッとウンニョが鋭く口を挟んだ。

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