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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第7章 花の褥(しとね)で眠る

「どのような事情があるのかは存じません。ご立派な方がわざわざ身の上を偽ってまで、このような辺鄙な村においでになったのには深い意味があるのでしょう。それでも、儂は若さまに申し上げたいのです。いつまでも自分を偽ろうとせず、本来の姿に戻る方が若さまにとってはお幸せではないのかと」
 最後のひと言に、凛花はギクリとした。
 まさか、自分が女だと見抜かれたのでは?
 一瞬、そう思ったほどである。しかし、これまでの経緯から考えて、秘密が露見したとは思えなかった。
 では、村長は今も凛花が男だと信じ込んでいる。その上で、凛花が身の上を偽っていると指摘しているのだ。
「お教えは肝に銘じます。村長、私の身の上などよりも、少しお寝みになった方が良い。日頃の疲れも溜まっているのでしょう」
 凛花はそう言うと、薬湯の入っていた湯呑みを持ち、逃げるようにその場から離れた。
 表に出て、ぼんやりと庭に佇んでいると、相変わらず盛りと咲く山茶花が眼に入った。
―いつまでも自分を偽ろうとせず、本来の姿に戻る方が若さまにとってはお幸せではないのかと。
 先刻の村長の言葉がまた、耳奥でこだました。
 本当にそうなのだろうか? 女として、本来の自分崔凛花として生きてゆく方が幸せなのか?
 だが、女に戻ったとしても、凛花には何もない。待っていてくれる人も、共に生涯を歩きたいと思う人も。
 文龍は死んでしまったのだ。
 凛花は慌てて首を振った。
 いけない、今は我が身のことで心を揺らせている場合ではない。自分がこの村に来たのは、一体、何のためなのか。文龍を失った心の隙間を埋めるためではなく、亡き人の志を受け継ぎ果たすためではないか!
 万が一、本来の姿に戻るときが来たとしても、それは己れが果たすべき任務を果たしおおせた後の話だ。
 今はただ、山茶花村の人たちの瀕する問題だけについて考えよう。
 凛花は人さし指を顎に当てて、考え込んだ。

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