
山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第7章 花の褥(しとね)で眠る
チルボクは込み上げてくる憤りと涙を抑え、歯を食いしばった。
と、突如として背後から野太い声が響き渡った。
「何だ、お前は」
ハッと我に返り、チルボクは振り向く。
数日前、ヘジンを取り囲んでいた県監の手下たちの一人だった。
刹那、チルボクの中で怒りの焔がひときわ強く烈しく燃え盛る。
「お前たちがヘジンを殺したんだな」
真っすぐに睨みつけてやると、男はニヤリと下卑た笑いを浮かべた。
「県監さまが愉しんだ後、俺たちが村の外れまで運んでいったんだ。そこで、俺たちも十分に愉しませて貰ったぜ。県監さまから殺す前に女を好きにして良いと言われたもんでな、お陰で極楽気分が味わえた。あの女、まるで膚が吸い付くようでさ、抱き心地も最高だったな」
「き、貴様」
チルボクは震える拳を握りしめた。
あろうことか、ヘジンは県監だけでなく、あの手下たちにも寄ってたかって辱められたのだ。
チルボクは懐から短刀を出した。鞘を抜くと、刀身が月光に鈍い光を放つ。
だが、チルボクが男に飛びかかるより先に、白刃が眼にも止まらぬ速さで光った。
チルボクの背中から刃は真っ直ぐに振り下ろされ、彼の身体はまるで意思を失った棒きれのように地面に倒れ、転がった。鮮やかな血が地面を濡らしてゆく。
「フ、馬鹿な奴だ。女など山ほどもいるのに、わざわざ生命を棄てにくるとは」
チルボクの背後に、新たな男―県監の手下たちの首領がまるで影のように佇んでいた。この男もむろん、へジンを拉致した一味だ。
首領は刀をひと振りすると、鞘に納め、後は見向きもせずに去っていった。
「やれ、こいつはまた、俺に死体を運び出せってことだな。この間だって、あの女の身体をいちばん愉しんだのはお頭の癖に、女を殺す嫌な役目は俺だものな」
残された男は肩を竦め、片足で物言わぬチルボクを蹴った。
「全く、死んでまで、手間をかけさせやがってよ」
恨めしげに天を見上げても、生まれたばかりの月は無表情に澄まして彼を見下ろしているだけだった。月にまで馬鹿にされているような気がして、彼は小さく舌打ちを聞かせた。
と、突如として背後から野太い声が響き渡った。
「何だ、お前は」
ハッと我に返り、チルボクは振り向く。
数日前、ヘジンを取り囲んでいた県監の手下たちの一人だった。
刹那、チルボクの中で怒りの焔がひときわ強く烈しく燃え盛る。
「お前たちがヘジンを殺したんだな」
真っすぐに睨みつけてやると、男はニヤリと下卑た笑いを浮かべた。
「県監さまが愉しんだ後、俺たちが村の外れまで運んでいったんだ。そこで、俺たちも十分に愉しませて貰ったぜ。県監さまから殺す前に女を好きにして良いと言われたもんでな、お陰で極楽気分が味わえた。あの女、まるで膚が吸い付くようでさ、抱き心地も最高だったな」
「き、貴様」
チルボクは震える拳を握りしめた。
あろうことか、ヘジンは県監だけでなく、あの手下たちにも寄ってたかって辱められたのだ。
チルボクは懐から短刀を出した。鞘を抜くと、刀身が月光に鈍い光を放つ。
だが、チルボクが男に飛びかかるより先に、白刃が眼にも止まらぬ速さで光った。
チルボクの背中から刃は真っ直ぐに振り下ろされ、彼の身体はまるで意思を失った棒きれのように地面に倒れ、転がった。鮮やかな血が地面を濡らしてゆく。
「フ、馬鹿な奴だ。女など山ほどもいるのに、わざわざ生命を棄てにくるとは」
チルボクの背後に、新たな男―県監の手下たちの首領がまるで影のように佇んでいた。この男もむろん、へジンを拉致した一味だ。
首領は刀をひと振りすると、鞘に納め、後は見向きもせずに去っていった。
「やれ、こいつはまた、俺に死体を運び出せってことだな。この間だって、あの女の身体をいちばん愉しんだのはお頭の癖に、女を殺す嫌な役目は俺だものな」
残された男は肩を竦め、片足で物言わぬチルボクを蹴った。
「全く、死んでまで、手間をかけさせやがってよ」
恨めしげに天を見上げても、生まれたばかりの月は無表情に澄まして彼を見下ろしているだけだった。月にまで馬鹿にされているような気がして、彼は小さく舌打ちを聞かせた。
