
山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第7章 花の褥(しとね)で眠る
白蝶貝の深みのある光沢、なめらかで上品な質感は、他に類を見ない素晴らしさがあり、昔から装飾品に利用され宝石と同等の価値を持つ。また、白蝶貝からは真珠が産出され、母貝だけでなく真珠も宝石として珍重される。
しかし、海女たちはどれほど身体を酷使して白蝶貝を捕ってきても、それを身につけることは一生涯ない。ただ、遠い都にいる王さまの妃たちの身を飾るために、日々、深い水底(みなそこ)に沈み、貝を取り続けるのだ。
あの栄螺も、アワビも、海苔、昆布も。すべてが村の女たちの血と汗と涙の結晶なのだ。
蔵の右端には、米の入った袋が積み上げられている。山茶花村の土地は痩せていて、殆ど農作物の実りは期待ではきない。それでも、村人が食べるだけの米は自分たちで作ってきた。前任の県監のときまでは米の代わりに海産物や白蝶貝の細工品を納めることになっていた。
しかし、今の県監が来てからというもの、そのなけなしの米すら、県監は取り上げようとした。地方役所の首長である県監に、領民が逆らえるはずがない。冷酷で強欲な県監は、山茶花村から海産物だけでなく米まで取り立て、そのせいで、村人は食べる米がなくなった。
その上、度重なる天災によって、飢饉が起こり、追い打ちをかけるように疫病まで流行った。県監は救済の手を差しのべるどころか、更に貢納品(年貢)の量を引き上げる。村人たちは
―県監さまは儂らに死ねとおっしゃるのか。
と、怒りに震え、手を取り合って泣いた。
その果てには、美しい村娘を見つけては屋敷に連れ込み、陵辱の限りをこらし、無惨にも殺す。
そして、ついにチルボクの最愛の恋人ヘジンまでがその好色な県監の毒牙にかかり死んだ。
―許せねぇ。
チルボクは怒りに震えながら、月明かりに浮かび上がる品々を眺めた。
せめて一度くらい、ヘジンにもあの白蝶貝の首飾りを身につけてさせてやりたかった。可哀想に、一生働きどおしで苦労ばかりして、挙げ句に県監の慰み者になって死んでしまったのだ。
幸せにしてやりたかったのに。
せめて生きていて良かったと一度くらい思わせてから逝かせてやりたかった。
しかし、海女たちはどれほど身体を酷使して白蝶貝を捕ってきても、それを身につけることは一生涯ない。ただ、遠い都にいる王さまの妃たちの身を飾るために、日々、深い水底(みなそこ)に沈み、貝を取り続けるのだ。
あの栄螺も、アワビも、海苔、昆布も。すべてが村の女たちの血と汗と涙の結晶なのだ。
蔵の右端には、米の入った袋が積み上げられている。山茶花村の土地は痩せていて、殆ど農作物の実りは期待ではきない。それでも、村人が食べるだけの米は自分たちで作ってきた。前任の県監のときまでは米の代わりに海産物や白蝶貝の細工品を納めることになっていた。
しかし、今の県監が来てからというもの、そのなけなしの米すら、県監は取り上げようとした。地方役所の首長である県監に、領民が逆らえるはずがない。冷酷で強欲な県監は、山茶花村から海産物だけでなく米まで取り立て、そのせいで、村人は食べる米がなくなった。
その上、度重なる天災によって、飢饉が起こり、追い打ちをかけるように疫病まで流行った。県監は救済の手を差しのべるどころか、更に貢納品(年貢)の量を引き上げる。村人たちは
―県監さまは儂らに死ねとおっしゃるのか。
と、怒りに震え、手を取り合って泣いた。
その果てには、美しい村娘を見つけては屋敷に連れ込み、陵辱の限りをこらし、無惨にも殺す。
そして、ついにチルボクの最愛の恋人ヘジンまでがその好色な県監の毒牙にかかり死んだ。
―許せねぇ。
チルボクは怒りに震えながら、月明かりに浮かび上がる品々を眺めた。
せめて一度くらい、ヘジンにもあの白蝶貝の首飾りを身につけてさせてやりたかった。可哀想に、一生働きどおしで苦労ばかりして、挙げ句に県監の慰み者になって死んでしまったのだ。
幸せにしてやりたかったのに。
せめて生きていて良かったと一度くらい思わせてから逝かせてやりたかった。
